設定を練り始めた当初から暖めていたのに、自分が思ったより昴を気に入ってしまい中々出せなかった過去話。この機に1日1章ペースで過去話を投下していこうと思います。
自分自身この過去話を忘れていたこともあり()、
過去の発言や言動との齟齬や矛盾が生まれてしまっているかもしれません、本当に申し訳ございません。見逃して下さい....。
追記
章が終わるごとに裏設定も更新していこうと思います
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一家の長男である自分は、どう足掻こうと弟にはなれない。
泣くなり駄々をこねるなり出来るのは下の子の特権であり、"お兄ちゃん"である己の使用期限はとうに過ぎていたと知ったのはいつだったろうか。元来の自分は泣き虫だし頑固な只の子どもであった。けれど下が泣いたら兄が慰めなければならないし、駄々をこねたら諫めてやらねばならない。お兄ちゃんという枠組みに囚われた自分は滑稽で、けれど特に秀でた部分もない自分が満たされるのも「いいお兄ちゃん」のレッテルしか無いのだ。複雑な感情が腹底で蠢いては《不公平》だと愚痴を零す。気がつくと理性とストレスの鬩ぎ合いで日々が通り過ぎていた。本当は甘えたい、頼りたい、だらしなく誰かに縋ってみたい。そんな思いが交錯したある日、
自分は[彼女]に出会った。まぁ、其の[彼女]の存在が己の分岐点になるだなんて、当時は気付いてすらいなかったのだけれど。
裏設定①
昴が教師になったのも下の子に勉強を教える為です。
どこまでも『良いお兄ちゃん』に拘る昴の性格が表れていますね
彼女の名前はとても可憐で、けれどその名前とは想像も付かないほどに豪胆でやんちゃで_____自由な人だった。隣家に越してきた彼女は自分より9つも上で、当時の年齢は7歳と16歳だったと思う。彼女には凄く可愛がって貰ったし、週に一度、何方かの家で食事をする程には家族ぐるみで仲が良かったのだが、彼女の話は何時も奇想天外だった。
夜中に遊び回って補導されただとか、屯ってる場所を誰かが通報して警察と追いかけっこをしただとか。決して世間的に褒められた事じゃないけれど、自分は、自分じゃ到底出来ない事をして楽しげに日々を過ごす彼女を見るのが好きだったのだ。只、それだけ。
だから別段、下記の発言だって意識したものではなかった。キラリと光るピアスが彼女のショートヘアの隙間から光るのを目にした時、無意識的に「髪、綺麗だから伸ばせば良いのに」と。何気ない日常会話のつもりであったが、酷く動揺した様子で「あ、あー.....そっ、そう?」と照れ笑いする彼女は何時もの倍以上に可愛くて、子供ながらに誇らしかった。然もその日を皮切りに彼女は髪を伸ばし始めたものだから、自分は尚更に誇らしかった。
裏設定②
彼女の名前は「茉莉花(まりか)」さんです。昴はお姉ちゃんと呼び慕っています。また、大のホラー好きである彼女はよく昴を心霊動画鑑賞に付き合わせていました()
小学校からホラーが苦手になったのはこのせいです。
それから2年して、夏。彼女の話は奇想天外と上記したが___今回の話は頭5つ分程抜けたものであった。「昴、わたし結婚するの」と。照れくさそうに、けれど幸せそうに告げる彼女はお腹をひと撫でしてから「赤ちゃん、出来たから」と僅かに母性の宿る瞳で言葉を紡ぐ。開いた口が塞がらない自分に対し、彼女はつらつらと恋人、否、旦那の事を話していく。「旦那がさ、付き合い始めた時に私に言ったの。髪が綺麗なんだから伸ばしたらもっと綺麗だろう。結婚式では素敵なヘアセットが見てみたいって。その日の夜に一緒にご飯食べたの覚えてる?そん時ね、昴も同じこと言ったんだよ。可笑しくって。けど凄く嬉しくって、伸ばしちゃった」
覚えていない、わけがなかった。だって、それはー...
彼女の腰あたりまで伸びた艶やかなさらさら髪が波打っては、まるで天女のような笑顔を浮かべる。その一連の動作がやけに幻想的で、美しくて。己の心を酷く抉った。そうか、彼女は俺に言われたから伸ばしたんじゃなかったのか。彼に言われたのが嬉しくて、伸ばしたのか。しかも理由が結婚だなんて。自覚せざるを得なかった。
《自分は彼女が好きだったのだ》と。その後の会話はあまり覚えていない。それから3ヶ月後に結婚式の招待状が届いては、ぽつりと「お金がある人と結婚したんだなあ」なんて感想しか出てこなかった。
裏設定③
茉莉花は16歳から髪を伸ばし、18歳時はセンター分け前髪なしの茶髪ロングになります。メイクは薄めでスカートは標準より少々短め程度。ここまで言えば昴の異常性が分かるでしょう。
聞いたところによると、彼女の旦那は彼女より5歳上の23歳だと言う。高校卒業後に若くして会社を立ち上げ、今は社長として働いているのだとか。(因みに、母が言うには23歳男性の一般的な年収とは良い意味で桁違いらしい)
結婚式が行われる迄の六ヶ月間。その間に彼女は足繁く我が家に通い団欒を深めた。学生ながらも妊娠をしてしまった、それは当時18の彼女には荷が重かったのだろう。
折角決まった就職先は通う間も無くクビになり、親にも言い出せず、ましてや旦那にも言い出せず。先がないと夜な夜な公園で泣いている彼女に気が付いて声をかけたのが、自分の母だった。彼女の言い分を聞き、抱きしめ、味方となって両親と旦那へ全てを告げる為の背中を押してくれたのだと。感謝してもしきれない。そう言って笑う彼女に『今が幸せならそれで良い』と告げる母の姿がやけに脳裏に焼き付いている。
1日の大半は旦那宅で過ごし、買い物の帰りに数十分間程度は自宅と御幸家に顔を出す。それが彼女のルーティンだった。
日に日に大きくなるお腹に、優しい彼女の笑顔。
「あぁ、旦那さんに愛されているんだな」と、そう思わざるを得ない。歳だって自分より近くて、経済力もあって、背も高くて、自立していて、顔だって格好良い。
何一つだって、勝てるところが見当たらなかった。
裏設定④
旦那さんの名前は新太(あらた)さん
底抜けに優しいお人好しでありながら、本当に大切なものは誰にも譲らないという信念を持ち合わせている人です
『もしもーし。うん、うん、6時半にはそっち着くから。
え?いや、良いって!歩かなさすぎも駄目なんだって、だから大丈夫。はは、もー過保護なんだから。はいはーい』
「いやぁ、マジでスゴいんですよ。ベビーグッズの量が。
オムツやらお洋服やら靴やらもー凄くって。経済力のある過保護はえげつねぇっスよ....。けど嫌じゃないの、愛されてんなー、とか、思ったりして。実はちょっと嬉しい」
「旦那と違って私は馬鹿で、社会にも出たことがない。
それがすげぇ不安になる、ってか、アイツ優しいから、無理に結婚してくれたんじゃないのかな、とか考える日もありますよ。けど、そんなの旦那に会っちゃえばぽんってどっか行っちゃうんスよね。いやぁー、惚気とかでなく。」
「昴もなー、いつかはパパになるんだもんなぁ。
良いパパになりそうスね、お兄ちゃんだし。あ、そういやうちの新太さんも3人兄弟の一番上なの。しかも黒髪だし目の色はちょっと薄いし、共通点多いなぁ....」
「えぇー、マジで苦手なんスよそーゆーノリ〜.....。あ、でも、あーーー。じゃあ、1つだけ。新太さんには電話で妊娠を告げたんですけど、詳しいことは会って話したいからって事で新太さん家に行ったんです。そん時に、ゴミ箱にタバコの箱が1ダース全部捨てられてたのを見たときは惚れ直しましたね〜。きゅんです。」
『ねぇ新太さん、そのままで良いから聞いて下さい。
んー?いや、別にドッキリとかじゃなくて。うん。ただ伝えたかったの、愛してるよって。........っふは、時差えげつないじゃん。耐性なさすぎか、よっ、って、待って、仕返しはずるい。...うん、うん。私もだよ』
裏設定⑤
昴がタバコを忌み嫌うのは下から二番目の茉莉花さんの話を聞いていたのが所以。「」は昴の母と話す茉莉花さんの台詞、『』は電話で新田さんと話す茉莉花さんの台詞です。
一度、聞いた事があった。新太さんのどこが好きなのかと。「どこだろうなぁ...。ひょろいし家事すらマトモに出来ないんだよ、新太さんって」
そう答える彼女の顔は、今思い返すと少し赤くて。きっと照れ隠しだったのだろう。本当に嫌なわけでは無かったのだと思うけれど、齢9歳の己にとっては彼女の真意を図れるわけが無かった。
『そうか、お姉ちゃんは嫌いなところがあるんだ。一緒に暮らすうちに嫌になって別れるかもしれない。』
そうしたら、俺が迎えに行ってあげよう。
だから今は、待つ。ひたすらに待つ。いつか終わりが来て、彼女が此方を見てくれる日まで。その時まで、じっと。
だからどうか、どうか。俺を忘れたりなんか、しないでね。
裏設定⑥
言わずもがな、昴が鍛えていたのはガタイを良くする為。
けれど本人は争い事は好かないので喧嘩はしません()
家事全般をこなせるようになったのも彼女の影響です。